リスクの分散

1920年代、第一次大戦後に、日本、米国、英国によるワシントン体制という仲良しグループがあった。 中国は現在の様な大国ではなく、ロシアも革命後の混乱期、ドイツは重い戦後賠償を抱えた時代。豪、加、印も植民地・半植民地である。消去法で、米国・英国・日本・仏・伊が世界5大国で、米英日がワシントンでの会議で決めた政治・軍事の枠組みが世界を支配した時代。
中国大陸においても、米英日は足並みを揃える。3ヶ国が中国大陸にもつ利権・既得権益が、そうさせたのだ。特に日本は満州に大きな利権を抱え、満州軍閥張作霖と結託、傀儡として満州統治に利用していた。蒋介石(国民党)が満州に軍隊を派遣した時も、日米英は、これを阻止するため、中国大陸に共同で軍隊を派兵している。
その後、米国は中国大陸への干渉を止めて、蒋介石の国民党の支持にまわる。中国国民党政府を敵にしないで、援助することで中国大陸への足掛かりを作ろうとした。その後すぐ、英国政府もワシントン体制から離脱する。日本は梯子をはずされ、中国大陸で孤立感を深める。当時の中国大陸にある日本の権益は、英国を凌ぐもので、日本政府の中国大陸からの撤退は、国民世論から受け入れられるものではなかった。
ここまで長々書いたのは、現在の情勢も、このワシントン体制時下とよく似ていると言いたかった事。米国も英国も中国とは国境を接していない。ましてGDP2位になった中国。米英が、経済や安保で、中国を日本より重視するのはやむを得ない。
いま東シナ海南シナ海で中国が進出している。この海域の国々(日本、フィリピン、インドネシアベトナム、台湾など)は、アングロサクソン諸国(米、豪、ニュージーランド、英国など)が、中国の進出の抑止力になってくれるという幻想を抱いている。自分の見立ては違う。米と豪は、黄海東シナ海南シナ海を問わず、第2列島線(小笠原諸島からマリアナ諸島までの経度線)の西側まで、中国の海洋進出を認めるのではないか?と思う。かなり長期的で先の話しだが。アングロサクソン諸国にとって、中国が人権や自由度が、西側に近いものになれば、間違いなく、自由主義国家に受け入れると思う。自由度で言えば、まだロシアの方が中国より先進的だか。
当面は、中国と係争している国々や地域(インド、フィリピン、ベトナム、台湾、インドネシアウイグル、ネパール、モンゴル、チベットなど)と緊密な外交をして、アングロサクソン諸国一辺倒にならない事が得策だ。リスクは常に分散しておくことだ。 状況によっては、アングロサクソン諸国、特に米国は突然、親中的な政策に変わることも大いにあり得るのだ。米国は中国と国境を接していないし、係争点はほとんどないのだから。ワシントン体制時下の様に梯子をはずされない事。そのためには、小さいと思われる国々と確固な安保(軍事協力)を構築することだ。

中国が世界的に大国だったのは元の時代にさかのぼる。元は異民族で、中国は周辺国の畏怖対象だったが、尊敬はされなかった。世界から尊敬された中国帝国は唐の時代までさかのぼる。今の大国中国はどうだろうか?内陸の農村部は、日本の明治時代以前の風景である。今の大国中国が恐れられているのは、その人口、お金、軍事の3点に絞られる。米国と違うのは、米国がもつ自由主義や科学技術力、突出した個性もない。日本はそういう点で中国をパートナーとして、あるいは先生として見られないのだ。
上記の欠点を中国自身が是正し、もう一段高みにのぼらない限り、周辺国から本当の信頼や尊敬を得る事はできないだろう。
中国も韓国も、国民ひとりひとりの民度シンガポール並みになれば、本当の意味での先進国なのだ。実はGDPなどでは測れない部分にこそ、先進国と呼ばれる所以があるのだ。
軍事力や経済力ばかりで築き上げた帝国には無理がある。日本は今黄昏時かもしれないが、軍事大国だった頃や経済大国だった頃より、民度は高いし、コモンセンスもある。そういう意味で、中国に対して、軍事や経済以外の事を多く教えられる力がある。 漢や唐時代の文化が色濃く残るのは現代では日本だけ。 今度は我々が滅びても大丈夫なように、大陸中国に我々の文化を根づかせてはどうか?
本来の意味で、戦争に勝つとは、そういう事だと思う。 人口、国土、経済力、軍事力で凌駕されている中国に、真正面から戦争を仕掛けない事。
どうして日本の小説や雑誌やアニメが世界に受け入れられるのか?彼らにソフトウェアや文化の本質を教えて、日本文化をかの地に根づかせる努力をする。こうした仕掛けが、これからの中国には必要になる。いま中国にはスターバックスが500店以上あるという。またマクドナルドも、じきに2000店を越えるだろう。マクドナルドは一貫して米国風の高カロリー高脂肪である。米国は中国にあわせて基本まで変えたりしない。日本は中国で何でも、中国風にアレンジしすぎるから、中国はいつまでたっても日本を理解しないのだ